竜王戦第1局、丸山忠久九段敗れる。急遽挑戦者決定による準備不足も否めず



2016年10月15、16日の両日、京都市の天竜寺で行われた第29期竜王戦七番勝負の第1局は、渡辺明竜王(32)が挑戦者の丸山忠久九段(46)に68手で勝利した。

 

敗れた丸山忠久九段は、開幕直前に急遽挑戦者に決まった。というのは、はじめは三浦弘行九段が挑戦者だったが、対局中に席を立つことが多いことから、将棋ソフトの不正利用の疑いをもたれ、10月12日に出場停止処分となり、挑戦者決定戦で三浦九段に敗れた丸山九段が繰り上げ出場となったことによる。

 

第一局は丸山九段の先手角換わりで始まった。丸山忠久九段は角換わりのスペシャリストとして有名である。丸山九段の指しまわしは激辛流とよばれるほど、細部に厳しく確実に勝利をものにする。しかし結果は68手の短手数で敗れてしまった。

丸山九段にとって、急遽挑戦者の立場になったことが、幸運な反面、準備不足の面も否めない。先手番で得意の角換わりで第1局を落としたことは非常につらい出だしとなった。

一方、渡辺竜王は、相手の得意系を堂々と受けて立った。10月3日に行われた順位戦で後手渡辺竜王が敗れた将棋に似た局面(1筋の交換が入っていない点が異なる)に進行していく。何と、竜王が順位戦で敗れた相手は、今回竜王戦で対戦するはずだった三浦九段だった。おそらく渡辺竜王は一度自分が敗れた局面で、三浦九段相手に雪辱を果たすつもりもあったのではないかと思われる。そんな敗れた因縁をもった戦形において、渡辺竜王は「42角」の自陣角で打開を図った。

余談だが、「自陣角」と聞いて思い出すことは、升田幸三実力制第4代名人が若い頃、坂田三吉から、「お前の角は大きい」と絶賛されたというエピソードである。将棋において、角を交換して持ち駒としたら、まず敵陣に打って活用する手を考えるのが普通である。そうして敵陣から成帰って「馬」にすれば、「馬の守りは金銀3枚」と呼ばれるように、守りに堅く、攻めては遠く敵陣を睨むといった八方睨みの活躍を見込むことができる。しかし、升田はそうではなく、自陣に角を打つ。これは、角自体の華々しい働きは捨てることになるかもしれないが、大局をみて自陣に据えられた角は、その角の利きによって、周りの小駒が存分に働いていき、ひいては全軍躍動の形をとることができる、と。そのようにして打たれる升田の角は大きいという意味なのだということのようである。

この時打たれた渡辺竜王の自陣角を境にして局面は竜王優位に傾いていくように感じた。

渡辺竜王について触れると、森内俊之竜王を4勝3敗のフルセットで破り、20歳という若さで初タイトルを獲得した。その後は防衛を重ね、2008年の第21期では、将棋界の王者、羽生善治名人とまさに「100年に1度の大勝負」と呼ぶにふさわしい死闘を制し、初代永世竜王の資格を奪取した。因みに羽生名人が勝っていれば永世竜王であった。また、現時点において、羽生名人は7冠の内、永世の資格を持っていないのは竜王のみである。この点においても、両者にとって重い対局であったことが窺える。その後、森内名人に敗れて連覇は途絶えるが、2015年には糸谷哲郎竜王を4勝1敗で破って竜王の座を取り戻し、現在に至る。

まさに鬼神の強さを誇る渡辺竜王が相手であるが、今回の騒動の吹き飛ばす意味でも、ぜひとも丸山九段には後世に残る名勝負を繰り広げていただきたい。今回挑戦者急遽変更の影響は、対局に備える作戦等の準備という点においては、渡辺竜王に有利に、丸山九段にとっては不利となったように見える。しかし、一呼吸おいて10月27、28日予定の第二局からは、丸山九段の巻き返しに大いに期待したい。

 

Sponsored Links