逃走経路を封鎖する角
先手の▲61角打ち。この一手によって、後手玉の逃げ道が封鎖されてしまいました。後手玉は絶対絶命のピンチか?いろいろ駒が密集していまして、何が何だかよくわからないけれど、後手玉は相当危険な気がするというところで前回の記事を終えました。前回記事の最後の局面を再度掲載します。もしこの記事にはじめて来られた方は、この対局の1回目『受けて潰せ!大山康晴十五世名人の銀矢倉から受け将棋の真髄を学ぶ。』と2回目『受け将棋を支える精神的強さ。自玉の危険度を見極める大山流の大局観』の記事からお読みいただければと思います。こちらの記事は3回目の記事になります。

ところで、この局面で、後手玉は次に詰むのでしょうか?この事を考えず、先手玉に王手以外の手で迫ると、自玉が詰まされてしまいます。なので、この局面がどれだけ危険なのか?をまず一番最初に確認しておかなくてはなりません。
これは、・・・後手玉に詰めろがかかってます。
▲64歩△73玉▲63金 まで。
きれいに角が効いています。83の逃走経路まで封鎖しているのが凄いです。
▲64歩に対し△同銀と取ると、
▲64同銀成△62玉▲63銀△61角▲53桂不成△71玉▲61金 まで。
この▲53桂不成が急所の一手ですね。角をただで取らせて、玉を取る。
なんか、『肉を切らせて骨を断つ』見たいでカッコいいです。
受け将棋の真髄
△7三玉

この△73玉が凄い手です。
これぞ受け!と言わんばかりの手だと思います。
何が凄いのか?
『一手前に受けよ!』、『玉の早逃げ八手の得』の格言そのものの手だからです。
意味としては▲64歩を王手で打たれないようにした手です。しかし、この手に対して、▲64歩を逃げられた後に打つのはもう遅いです。▲85歩と逃げ道を開けられたりしてしまい、金一枚ではつかまりません。
仕方なく先手は▲68歩と受けました。本当に仕方なくだと思います。
こうなると後手は安心して攻めていきます。
歩の威力
▲6八歩 △6七歩成▲同 歩 △6六歩 ▲同 歩 △6七歩

歩の攻めです。歩をたくさん渡しても、歩であれば全く怖くありません。なぜなら、先手は、王様に直接響く筋に歩を打つ場所がないからです。しかも、その歩が”と金”となって襲いかかってくるから恐ろしいものです。歩の威力はそういうところにあるのだと思います。
▲8八玉 △6八歩成 ▲9八玉 △7九銀 ▲9六歩 △8五歩▲9七玉

先手は▲88玉と早逃げします。後手は、△79銀と追いますが、先手も▲96歩と端から上部に逃げ道を開けます。この時、下から迫るのではなくて、上から△85歩と逃げ道を封鎖します。
先手は、何とかして後手に歩以外の駒で攻めてきてもらって、その駒をもらったら反撃したいと考えています。▲97玉と更に早逃げをしたのはそういう理由からですね。
端玉には端歩
△9四歩 ▲2九飛 △9五歩 ▲同 歩 △9六歩 ▲同 玉 △8四金

後手は、尚も、△94歩と『端玉には端歩』の格言どおり基本に忠実に攻めてきます。先手は△79銀を狙って▲29飛車と引きます。なんとか銀一枚でも手にして、最後の勝負を挑みたいという意志を感じます。
後手は、急所の端歩突きですね。△95歩です。
この瞬間、チャンスが到来していたのではないかなって思ったのですが、やっぱり駄目だったんでしょうか?▲79飛車と銀を取る手です。
仮に、▲95同歩の代わりに▲79飛車と銀を取った時はどうなるのかなって思いました。例えば、ここから、飛車を取らずに△96歩と攻めて行った場合、▲98玉ならば△97金で詰むと思います。しかし、▲88玉と引いた時どうなるでしょうか?
詰むや詰まざるや
私の棋力ではこの時に先手玉を詰ますことができません。
▲88玉の後、△78金打はどうかと考えましたが、これも▲同飛車ととってもらえれば、△78同と▲同玉△58飛車▲79玉△68飛車成で詰みます。しかし△78金の後、金を取らずに▲98玉と逃げられた後に詰まないと思います。
△97歩成▲同桂△同香成▲同玉△96歩▲98玉。歩を取らずに引くので、ギリギリ先手玉が残していると思うのですが、いかがでしょうか。
しかし、そうは言っても▲79飛車と銀を取られても、”△同と”と飛車を取り返しておけば、あとは、後手玉が詰まなければ後手が勝ちですので、後手は何も攻めに行く必要はありません。
飛車を取り返されたあと、先手からの攻めは、▲64銀打つ△84玉▲75金△同歩▲同銀△93玉で続きません。なので後手が勝ちと考えることもできます。
なので先手は▲95同歩と取ったのだと思います。そのあと、▲96歩から玉を吊り上げ、次に香車走りの一手詰めを狙って△84金と打ちました。
とどめの歩頭金!
▲9七玉 △9五金▲7九飛 △8六金 ▲投了まで122手で後手の勝ち

先手は▲97玉から早逃げします。後手は、悠々と△95金から詰めろで迫ります。先手は逃げ切れないと、▲79飛車と銀を取ります。
最後にカッコいい手が出ます。△86金です。この金がタダだと思って取ると、91の香車で玉を取られてしまいます。両王手です。実戦はこの手を見て先手が投了しました。
この投了図後は先手は▲88玉と逃げるしかありません。ここで、△87金と歩をとって王手をします。これを▲同玉と取るしかありません。そのあと△86歩▲88玉△87歩成までの詰みです。
とうとう、先手は79の銀を取る手が間に合いませんでした。そのように考えると、後手は、最後に歩しか先手に渡してないことになります。凄いとしか言いようがありません。
まとめ
大山十五世名人の矢倉の将棋を二局並べてきましたが、どちらも受け将棋の真髄がそこここに出現しています。特に金の使い方に特徴があると言われますが、本当に金が活躍しています。ブログを書いていても金の符号がたくさんあるように感じます。
大山十五世名人の矢倉は、はらはらどきどきさせられます。際どく守る技術とそれを支える精神力が凄まじいと感じました。
大山十五世名人の将棋は一将棋ファンとして、もっと多くの人に知ってもらえればと思います。攻めるのではなくて受ける。受ける将棋が面白いと思ったら、きっと今よりも強くなれるはず!私は攻めの方が好きですが、受けの技術をもっと学びたいです。
また面白い将棋を見つけたら気ままに書いてみたいと思います。最後までお読みくださり有難うございました。
他にも棋譜を並べています。よろしければご覧ください。将棋(棋譜並べ)の目次