矢倉囲い 終わった? 先手矢倉対後手雁木。増田五段が現代に蘇らせた雁木の優秀性を感じた一局。感想編



対局を振り返って

2017年9月12日の新人王戦の対局の中から、対局者は先手が斎藤慎太郎七段、後手が増田康宏五段(2018年1月12日5段に昇段。)の一戦をこれまで3回にわたって記事にしてきました。

ここで斎藤七段についてですが、実力者です。現在2018年1月時点でB級1組に在籍しています。次は将棋界最高のA級になります。2017年には、羽生さんを相手に棋聖戦5番勝負の挑戦者となりました。

18歳でデビューし、その直後から高勝率を上げて、1年もたたずに五段に昇段し、”西の王子”と称されるほどのハンサムガイです。将棋界におけるイケメンであり、実力も折り紙つきということなのです。

この斎藤七段に挑んだ増田五段は、前記事でも紹介させていただましたが、天才と呼ばれるに相応しい棋士です。

参考記事:”藤井聡太四段29連勝!端の名角が鬼神の働き。東の天才増田康宏四段、連勝を止められず。

中学生プロ棋士として藤井四段がさわがれておりますが、実は増田五段(も中学校3年生になる2012年3月に三段に昇段しましたので、その可能性があった棋士だったのです。

残念ながら記録として残りませんでしたが、実力は折り紙つきです。尊敬する棋士は升田幸三実力制第四代名人。新手一生を旗印にした、将棋の可能性を追求し続けた大棋士です。

升田さんも石田流を独特の工夫を加えて進化させて、升田式石田流として蘇らせたのは有名な話です。今でも升田式石田流の変化は、ゴキゲン中飛車や角交換振り飛車の序盤を支える重要なものとなっています。

増田五段も雁木戦法を現代に蘇らせた点で似ています。増田五段の師匠は矢倉の大家である森下卓さん。森下さんと言えば森下システムという矢倉の定跡を残したほどの矢倉の第一人者です。その弟子の増田さんが矢倉ではなく雁木を蘇らせたところにおもしろさを感じます。

 

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将棋の内容について ~駒のバランス感覚~

斎藤七段の先手矢倉に対し、後手増田五段は雁木で対抗しました。増田五段はかつて、矢倉を得意としていたようです。しかし、左の桂馬の活用が難しいということで、「矢倉は終わった」と発言しました。この言葉を言えるのはすごいことだと思いました。

師匠の森下さんが矢倉の大家であることは先に話しましたが、おそらくずっと矢倉を研究し続け、その果てに辿りついた答えなのだと私は思いました。

この言葉に込められた思いと雁木に託した希望がどのようなものなのか、そんな思いからこの棋譜を並べたいと思ったのがこの記事を書いた理由でした。

実際に実力者斎藤七段を相手に、しかも戦法は先手矢倉です。対して後手雁木。これだけを聞いても、とても興味をそそられます。

結果的に、将棋は雁木が勝ちましたが、特筆すべきは、矢倉の攻めの理想形を築いたあ上での攻めであったということです。わずか32金の一枚で守る2筋に、ものすごい圧力が加えられ、突き破られてしまいました。

しかし雁木側の反撃も厳しく、何よりも飛車で玉の上部を安全にしながら、入玉まで視野に入れた戦略がすごいと思いました。まさに”中段玉寄せにくし”で、玉自体の上部に逃げだすという選択肢が矢倉よりも選びやすいと思いました。

というのは、矢倉の場合、攻めあいを目指し、崩れゆく囲いの中で、どちらが最後まで一瞬でもいいから生きていられるか、を競う感覚があったのですが、雁木の場合は、そもそも玉を囲いません。

対する矢倉陣も、本来は矢倉の中に玉を88に囲うのですが、22に居る角が遠く玉を睨む形になるため、88に入りづらいという感じがします。そうなると、79や69あたりで玉が待機することになりますが、雁木と比較すると、雁木の方が安定して見えるのが不思議です。

これは、矢倉の金が3段目に上がるのと、雁木の金が2段目にいるのの違いかなと思いました。”一段金に飛車捨て有り”と言いますが、金は下段に居ればいるほど安定します。そんなことからそう感じたのかなと思いました。

こうなると雁木も矢倉も囲いの外で戦うことになり、金の位置の分だけ雁木陣の方が重心が低く、かつ、雁木陣の方が玉の活動範囲が大きく、上部に脱出しやすいのではないか、と思ったわけです。

矢倉の攻め筋も対矢倉とは異なり、限定されるのかな、と思いました。桂馬を使って銀に働きかけるという手が生じにくいと言う点です。もともと33に銀がいませんので、桂馬が跳ねても銀あたりになりません。

また本譜もそうですが、2筋から自分の角と敵の守りの要である32の金とを交換して飛車を成りこむというのが基本の攻め筋になるのかなと思います。

この攻め筋では、大駒一枚は相手に渡すことになりますので、反動がきつくなるのは当然です。

飛車角銀桂香で攻めてくる矢倉の攻撃陣に対し、後手の守り駒が貧弱すぎる感じもしますが、逆に言えば、そもそも守りに手数をかけていませんので、突進して行っても、矢倉陣を崩壊させるような手応えが薄いという感じがします。

矢倉対矢倉ならば、堅い矢倉囲いを全力で打ち破る、というところが、堅い木の守りを堅い木でぶち破る、みたいに見えますが、矢倉対雁木の場合だと薄い紙の守りを堅い木でぶち破る、みたいな印象に変わります。

紙は破れるのを前提としているので、破られた場合の想定がしやすいわけです。つまりは、どうやって破られるか、手を限定させることが可能ではないのかと思うわけです。柳のようにかわすように守ることで、先手の攻めを重くさせることができるのでは、と思いました。

実際、先手は後手に飛車を渡してから反撃がとても厳しくなりました。先手陣の囲いに入っていない玉は、かなり響きが大きかったように思います。88に玉をしっかり囲っての矢倉本来の玉の堅さが活きないということが、大きかったかなと思いました。

感想が矢倉と雁木の駒のバランスについての視点だけで今回の記事は終わってしまいました。このこと以外にもかなりこの棋譜から感じたことがありました。それについてはまた次回に譲りたいと思います。 チャオ。

前の記事:先手矢倉対後手雁木。増田四段が現代に蘇らせた雁木の優秀性を感じた一局。後編

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